村人の栄養改善に向けた活動

ジャンクフードの過剰摂取

ネパールでは栄養価が低く脂質やカロリーの高いジャンクフードが流行しています。村の子どもたちは、お菓子やラーメン、ジュースが大好きです。砂糖を何杯も入れたネパールティもよく飲まれます。

村の100世帯の調査で村人たちは、ジャンクフードをどのくらい食べるかでは、「週に3~4回」が38.8%、「毎日1回以上」が46.9%と答えました。子どもが野菜嫌いであると答えた親は7割を超えました。

私たちはネパールで、小さな子どもがスナック菓子やチョコレートを食べていたり、1歳くらいの赤ちゃんに甘いジュースを飲ませている様子を目にして大変驚きました。

学校帰りの子どもたちは現地語でチャウチャウと呼ばれる、インスタントラーメンをお菓子代わりにボリボリと食べながら歩いてます。粉々にした乾麺へ粉末スープやスパイスをふりかけて、そのまま食べます。

私たちが客人として招かれたら、インスタントラーメンでもてなされます。インスタントラーメンはもてなし料理であり、栄養満点、手間ひまかからない魔法のような食材と考えられています。

インスタントラーメンやスナック菓子の袋には、ビタミンたっぷり!体によい!というような絵柄やメッセージが書かれてあります。子どもたちの9割以上が初等教育を受けられるようになり、字を読める子どもたちが母親や祖父母にパッケージに書かれていることを伝えます。

「からだにいいって書いてるよ!」

多くの親は、わたしの子どもは野菜を食べない、お菓子ばかり欲しがりますと言います。

大人も子どもも、ジャンクフードを食べすぎていて、依存症になっているのです。

ジャンクフードは、何度食べてもまた食べたくなるような味や香りになっています。 また、パッケージデザインがまた食べたい、美味しそう!と思わせる工夫がたくさんされています。そして、都市部も田舎も道端はジャンクフードのゴミだらけです。
どうして、こんなにジャンクフードばっかり食べてるの?
どうして、こんなにゴミだらけなの?
どうしてネパール人の中高年の人々は、お腹周りがでっぷりとしたメタボリックシンドロームになってしまうの?

栄養の二重負担

ネパールは、今、生活習慣病を患う人々が急激に増加しつつあります。良質なタンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養価の高い食べ物が彼らには必要です。ジャンクフードを過剰に食べ続ければ、体に悪いことは誰もが理解しています。そして命を脅かす肥満、糖尿病、心臓病など生活習慣病の原因となります。今、ネパールでは栄養の二重負担という健康問題が増えています。二重負担というのは、痩せすぎ:低栄養(栄養不足)と太り過ぎ:過剰栄養(肥満など)が、同時にある状態のことです。低栄養は子どもの成⾧や発達を妨げ、貧血や栄養失調は思考や活動力を低下させます。また、肥満は将来の生活習慣病になる可能性を高めます。このような状態を栄養の二重苦とも呼びます。

生活習慣病とは、糖尿病や心・血管疾患、メタボリックシンドローム、高血圧などです。小さく生まれた低出生体重児は、将来的に過剰栄養いわゆる肥満になりやすく生活習慣病のリスクが高くなることが分かってきました。(DOHaD)

これまでネパールでは栄養失調や飢餓など栄養素の不足が問題でありましたが、現在では二重負担が深刻な課題に変わり肥満と低栄養の二極化が進んでいます。

開発途上国において、健康に対し大きな脅威となる過体重や肥満などの問題は無視されてきました。低栄養への取り組みはなされていますが、過剰栄養による肥満については対策と対応の歴史はまだまだ浅い状況です。世界保健機関(WHO)は「24 Essential Nutrition Actions」で、低栄養と肥満を予防し、人々の栄養状態を改善するための目標を発表しました。私たちは、このような栄養問題に取り組むためにJICA草の根技術協力事業(2016‐2019)で、村人の栄養改善に取組みました。村の人々の栄養を改善し、生活習慣病を予防することがJICA草の根技術協力事業の目標でした。

何かを教えるのではなく、あなたの本来持つ力に気づき、強めたい

学童期までの子どもたちの痩せや、低栄養は4割を超え、思春期から肥満率が上昇し、30代以降の肥満率は4割を超え、高血圧は3割、メタボリックシンドロームが5割を超えます。

生活習慣病に罹患していても病院に行っていない村人も多くいます。体重や血圧測定が初めての経験という村人もいました。

ガスや冷蔵庫のない生活では食材を保存できていない事、若者や男性が出稼ぎに出ており安価で簡便なジャンクフードに偏った食卓になっていることなどが理由で、ネパールの伝統的なダルバートという、豆や野菜、タンパク質たっぷりの食卓から、ラーメンやスナック菓子に頼る食卓に変化していました。

これが、一般家庭のダルバートです。左上からダルスープ(豆のスープ)、鶏肉のカレー漬け(お客様用に1品多いです)、ラルモハン(小麦粉とチーズを混ぜて揚げてシロップ漬けにして潰したもの)ヤギのミルク大盛りのご飯、アチャール(青菜の和え物)

バランスは良いですが、1000キロカロリーを軽く超えています。この米の盛り付けは一番少なめですから、一般的に炭水化物を食べ過ぎていることもJICAの調査で理解できました。

一方で、子どもたちの低栄養と低身長は深刻な問題になっていました。

グンドルックの普及活動

「村の人々の栄養改善、生活習慣病の予防」を目標としたJICAの活動が始まりました(2016-2019)

私たちが目をつけたのはグンドルックです。

グンドルックはネパールで大昔から伝わる漬物のことです。青菜であればどんな野菜でも、塩を使わずに乳酸菌で発酵させます。ネパールの標高が高く寒さの厳しい乾季の風土はグンドゥルックの生産に適しています。山深い土地で冬の野菜を保存する必要があったことから、塩を一切使わない製法が発達しました。これらの地理的条件より、グンドゥルックが生まれたのです。

つい最近まで、ネパールではグンドルックが「貧乏人の食べ物」「食べると胃の調子が悪くなる」という認識が広まり、作る人も、食べる人も少なくなってきたという、食文化の変化が起こっていました。しかし、私たちはこの食材が間違いなくネパールの伝統的食材の中でも、栄養価が高く、安価で、保存ができる発酵食品であることを確信していたため、ネパールの伝統食材であるグンドルックを村の人々の食卓へ復活させることと、村人の栄養改善を目的としたプロジェクトを始動しました。グンドルックからは乳酸菌が確認され、胃腸の調子を整える効果があることも実証されています。グンドルックを使った、様々なレシピを考案し、健康教育や調理実習など村の人々が主体となれる活動から栄養改善プログラムを提供しました。

グンドルックのふりかけや、グンドルックのお焼き、グンドルックのスパイス炒めなど、これまでグンドルックスープだけであったレシピが豊富になり、お年寄りから子どもたちまで、大変好評でした。そして、文字を使わないレシピ集がどんどん増えました。「グンドルックを食べよう」の替え歌もでき、学校での普及活動へ拡大しました。

グンドルック以外の乾燥野菜の普及活動も行われました。冷蔵庫をもたない村の野菜の保存食として乾燥野菜の作り方を示したポスターです。

乾燥野菜の作り方
乾燥野菜の作り方ポスター2
乾燥野菜の作り方ポスター2


乾燥野菜は生野菜と比較しても栄養価は落ちない、むしろ栄養価が上がる食材もあることに村人は驚きました。定期的な健康教育を村の仲間と共に、高齢者から子どもたちまで継続して行いました。生活習慣病健康診査も定期的に実施し、身長、体重、体脂肪、腹囲、血圧測定が村人から選出されたプロジェクトメンバーで行われ、健康教育も村人主体で開催できるようになりました。寝たきりや孤立無援となった高齢者へは家庭訪問がなされました。

このような活動を通して、栄養改善の重要性や、生活習慣病の予防の啓発が村人によって継続されました。プロジェクト開始から2年後には、食事や運動そして栄養に対する正しい知識をもつ村人が増え、過体重や肥満であった村人の割合が約4割から3割へ、高血圧をもつ村人が4割以上と高率でしたが、栄養改善や運動習慣を身に着けることで、2割弱に減少しました。村からバスで約3時間かかるポカラ市の病院へ受診し、定期内服を開始する村人もいました。ジャンクフードを食べる頻度が減り、グンドルックを作る家庭が約2割から8割以上へと増え、お弁当を持参する子どもたちも増えました。道端に落ちているジャンクフードのごみの量も格段に減り、村の衛生環境改善へも効果がありました。

村のお土産はグンドルックが定番となり、グンドルックを安く売る村の売店も増えました。

サステナブルに続きますようにと願い2019年度までのプロジェクトを終えましたが、現在もグンドルックは村人から愛されているようです。

また、この続きは、別の企画でご報告させていただきます。